ー元大学病院職員である20代社会人の医療や福祉に関する備忘録ー

元大学病院職員の20代男子が医療や福祉の事を発信するブログです。

大学4年生の時に書いた精神医学の自己省察について公開してみる(2)

前回の記事の続編で、「精神疾患の治療や支援」について書きました。

大学4年生の時に書いた精神医学の自己省察について公開してみる(1) - ー元大学病院職員である20代社会人の医療や福祉に関する備忘録ー

今回の記事では、精神疾患の治療方法やサポートについて私見を論述したいと思います。

精神疾患の治療や支援

精神疾患の治療過程においては、発症状況を形成した周辺環境と病気になった自分自身の二方面から立て直す必要がある。自分で自分を主体的にコントロール不可能な状態では、環境や周囲との関わり方を変えるだけでは快方に向かう事は困難であり、可能な限り早い段階で受診し、薬の服用を始める、カウンセリングを実施する、休息する、病態によっては入院治療を開始して安心できる保護的な環境を確保し休息や生活リズムを整えていく、といった対策を立てる事が治療において重要となる。

精神疾患の多くは、“こころの病”と形容されるように心理的な要因に目を向けられる傾向にあるが、実際には脳内の神経伝達物質に変調が生じており、それが原因となって幻覚や妄想、抑うつ等の精神症状を引き起こすのである。こうした特性を踏まえると、精神疾患への対処を考える際は、専門的な医療機関で投薬等の医療的アプローチを行うことが重要なのである。

精神疾患による入院

入院治療が必要となった際には、病状に応じて閉鎖病棟開放病棟で治療で行われるが、患者の自傷他害その他の不適切な行為等により、本人や周りの患者等の安全と保護を特別に図る必要が生じた場合では、隔離や生活環境の制限等の処置を取り、患者の自由を拘束する事が必要になる。

さらに、入院に伴って仕事や住居、経済的な問題、家族や近隣住民との関係など、様々な課題が表面化したり、新たに発生する場合もある。これらの課題の中には、早急に対応しなければならないものもあれば、病状の回復経過を見ながら進めていった方が良いものもある。性急に取り掛かる必要のないものでも本人や家族が切迫した気持ちになっている場合もある。患者自身の希望に沿いながら、回復段階や経過に応じて社会でしっかりと生活出来る準備を整えていく事が肝要である。

外的なストレス環境について

外的なストレスの問題に関しては、患者自身の置かれた環境そのものが過酷である場合もあれば、現実を実態以上に被害的に捉えているか、知らず知らずに他者からの抑えきれない顰蹙を買うような振る舞いをしているか、の何れかの可能性が想定される。安易に何が悪いかを一概に決めきれる訳ではないものの、患者自身が主観的な主張のみを頼りに、実態を把握する事は困難な点に留意すべきである。

また、環境自体が患者の症状悪化を誘発する怖れが存在する場合は、たとえ治療期間中に心身の状態が回復し、自らの対処行動能力を高めていったとしても、元の環境そのものが変わらなければ逆戻りしてしまう可能性が高い。 治療過程に関わる医療者としては、病院外で医者の目が届かなくなった場所で生活し続けなければいけないという事をきちんと理解した上で、この先の人生を見据えた治療を行っていく必要がある。

精神障害は「目に見えない」障害である

精神障害者の数は近年著しく増加しており、多くの患者が存在すると思われるが、他の身体障害や知的障害に比べて障害面への理解が遅れている現状がある。その原因の一つは「外部から目に見えない」という疾患特性にあるのではないかと思う。例えば、下半身が麻痺状態にあり、車椅子に乗っている人、眼が不自由で移動時に介助を要する人などは一見して障害に起因する生活上の困難さが判別しやすい為に、周囲からの手助けや配慮を受けることは特別な事のように思われない。しかしながら、精神疾患は外部から見てその人が抱える障害や困難さの部分が見えづらく、周りの理解やサポートを得るのが難しい。精神障害故の課題や生きづらさがあるということを、支援に携わる専門職だけでなく、社会全体が広く認識していく必要性がある。

大学4年生の時に書いた精神医学の自己省察について公開してみる(1)

私は大学時代に、精神医学や心理学の学問領域に大変興味を持っていて、精神保健分野のゼミにも所属していました。今回の記事は、自分の専門分野の一つである(と自負している)精神医学に関する私自身の省察・見解をまとめたものとなります。
文章中において所々稚拙な部分も見受けられるかと存じますが、最後までお読み頂けますと幸いです。

精神疾患の発症背景及びそのメカニズム

なぜ人間は精神疾患に罹患するのか、人口の約1%ー約100人に1人ーは統合失調症になると言われるこの世の中において、精神疾患を発症するまでに至るプロセスに関し、これまで多くの臨床家や研究者達が様々な仮説を立てられてきたが、以下では私自身が考えた精神障害の発症背景とそのメカニズムについて述べていく。

外部からの強いストレスが発症原因となる

先ず、精神疾患の発症に至るまでの生活歴や病気を引き起こすきっかけとなった出来事、本人のパーソナリティ(性格・価値観)は病名の種類を問わず千差万別であると思われる。例を挙げるとー家族関係・親類の不和・虐め・引きこもり・子育ての負担・不登校・失業・嗜癖・受験生活・失恋体験・親しかった人の死・仕事のストレスーなど多岐に渡る。強いストレスに晒される、或いは過度に抑圧された環境に居続けると、脳の情報処理が適切に行われなくなり、正常思考を保てるだけの余裕や平静さを失ってしまう。さらには、精神症状として、抑うつ状態、不安感、意欲や集中力の低下、妄想や思考が錯乱する観念奔逸等、身体症状として不眠、吐気、頭痛、目眩、動悸、倦怠感等といった人によって様々な症状(ある種の防衛機制と言ってもいいかもしれない)が生じる。

換言すると、元々の遺伝的素因や環境要因に加えて、ライフサイクルに応じた其々の悩みや課題等の心理社会的なストレスが重なり、本人の対処能力を超えて強い心理的負荷が掛かる事で発症するではないか、と考えた。

本人の性格や気質

上述した外的ストレスに加えて、病気を発症して精神科受診に至るまでに、生活上で何らかの上手くいかなかった個人的因子、例を挙げるとー環境の選び方、問題の対処方法、人間関係の築き方、不合理な思考、些細な事柄への敏感性、複数選択肢の検討不足、非現実的な考え方、自尊心の低さ、自己価値への根源的な不安、自責(反対に他罰)的な傾向等ーが関係している。つまり、多くの精神疾患は他者から暴力的に損害を加えられる虐待やハラスメント、ストレスフルな体験などの外的要因に加え、本人の性格特性や思考傾向などの内的要因の二つの要素が存在し、大概の場合その二つが複雑に絡み合って発症に至るのだと思われる。

これらは社会において適応的に生活している人々の間にも決して珍しくない傾向の非常に誇張された事例として捉える事もできる。
その為、精神疾患は健康的で一見社会に適応して生活している人々も条件や環境が整えば誰もがなり得る可能性があると考える。

精神疾患になりやすい性格や素因がある

強い精神的負荷を受けると全員が特定の病的な症状を呈するのか言えば、一概にそうとは言えないのが実情である。精神症状としては、抑鬱・興味及び喜びの喪失・易怒性・解離・時間感覚の欠如・被害的な信念体系の形成など様々な反応が存在する中で、各人がそれぞれの症状に適応する素地がある病気(統合失調症双極性障害鬱病等)に発症に至りやすいのではないか、と私は考えている。要するに、病気になりやすいか否かは遺伝的素因や元来の性格によって大きく規定されるという事である。

この種の議論は様々な識者や臨床家によってなされており、現代の科学的な精神医学研究の最先端と併せて今後自分の中で更なる学びを深めていきたい事柄である。

東大医学部教授の退官記念講演での有名な逸話

医療関連の新書を読んでいた際に、印象的なエピソードが載っていたので、ブログで紹介させて頂こうと思います。

東大教授の退官記念講演での有名な話

1963年、ある高名な医師の方*1が退任記念の最終講義において教授在任中の集大成として「内科臨床と剖検による批判」について発表しました。
その発表の中で集まった教え子達に向かって、「これまでの自分の誤診率は14.2%だった」と話されたのです。

会場からは響めきが起こりました。
その後、この話は新聞社を通して外部にも伝わり一般の人々も間にも広く反響を呼んだそうです。
けれども最初の講演会場での医師や学生達の驚きと、一般市民の驚きは全く異なるものでした。

会場にいた医師達はその誤診率の“低さ”に驚いていたのに対し、一般の人達は誤診率の“高さ”に驚いたのです。日頃臨床に身を置く医師にとっては、“徹底的に診断しても、厳格な基準のもとでは誤診はこんなに出る。医学とは難しいものなのだ。”と改めて痛感させられる内容だったのではないでしょうか。

反対に、一般市民にとっては東大の教授でさえも14%もの確率で誤診してしまうのかと思われたのかもしれません。

専門家と一般人の間では誤診の意味合いが異なる

実際に誤診と判断としたのは厳しい基準によるものだったそうです。
沖中教授の言う“誤診”とは、臨床所見と部険所見との不一致を意味し、世間一般にいう医師の不注意や怠慢・知識不足等により診断を誤った事で患者側に著しい不利益を及ぼしたものではないという事です。

17年間の剖検率は平均86.2%、内訳は入院患者総数8,512人、死亡1,044人、剖検数900。この900のうちから正確なデータのとれる750を対象に、厳密な誤診の判定基準を設けて分析した。第一は臓器の診断を間違ったもの、第二は臓器の診断は正しいが病変の種類の違っているもの、第三は診断と剖検所見は一致するが原発の臓器が違っているもので、これは非常に厳格な判定基準である。

CTやMRI等の画像診断を始めとした診断技術が未発達な時代において、誤診率14%というこは驚異的な低さであると言えるかもしれません。病歴聴取、基本的な診察、限られた検査所見でここまで診断を付けていたことに感服します。

医療職は自らの専門的知識やこれまでの臨床経験に基づいて、患者の病状を診断し、治療方針を決定する裁量を有していますが、“診断上の限界点”を認識し、自らの診断や医学における不確実性を自覚する必要があると思います。

度重なる誤診

度重なる誤診

  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: MP3 ダウンロード

参考サイト:
okiken.tokyo

*1:冲中 重雄(おきなか しげお) 医学者。医学博士。1902年(明治35)、石川県生まれ。東京帝国大学医学部医学科卒業。1928年(昭和3)東京帝大副手となり、1931年欧米に留学。1943年同助教授、1946年教授となり、1963年までつとめる。

様々な疾患に対して異常値を示す「CRP」とは

今回は、幾つも存在する血液検査の項目の中でも汎用性が高く、身体の異常を分かりやすく示してくれる「CRP」という値について解説していきます。


CRP」とは何か

CRP(正式名称はC反応性蛋白)は、炎体内で炎症や組織の破壊が起きている時に血中に現れるタンパク質の一つです。血液検査において一般的に計測されます。

CRPの特徴として、炎症や細胞破壊・損傷後、24時間以内に急激に血液中で上昇し、炎症が収まると正常値に戻ります。

CRPは、所謂“疾患特異性”がなく、様々な疾患で血中量の上昇が認められる為に、どんな疾患なのかを特定することはできませんが、CRPの値が高ければ身体に炎症反応があることは分かります。

CRPが異常置を示したらさらに詳細な検査を

CRPの数値が上がっている時は何らかの感染症に掛かってていることが多く、細菌やウイルスによる感染症などが疑われます。

ただし、CRPだけではどの臓器に炎症があるのかは判断できないため、他の検査項目の結果を含めて総合的に判断したり、再度血液検査を行った上で依然として数値が高い場合や上昇傾向にある場合は精密検査を行うことが勧奨されます。

基準値

CRPの基準値は一般的に以下の通りです。

一般的にCRPが5.0~10.0 mg/L(0.5~1.0 mg/dL)の範囲内の場合は軽度の(症状疾患)炎症・感染の可能性が示唆され、CRPが10.0 mg/L(1.0 mg/dL)を超えると、臨床的に明らかな急性期反応が起こっていると考えられます。30を超えたら生命の危機が訪れていると言えます。

正常範囲 0.3 mg/dl以下
軽い炎症などが検討される範囲 0.4〜0.9
中程度の炎症などが検討される範囲 1.0〜2.0
中程度以上の炎症などが検討される範囲 2.0〜15.0
重体な疾患の発症の可能性が検討される範囲 15.0〜20.0

CRPが高値を示す疾患

CRPは、感染症、関節リウマチ等の自己免疫疾患、怪我や手術の後などに、血液中のCRP上昇が認められる。一方で、組織や細胞の破壊が起きた時にも上がる為、心筋梗塞脳梗塞、がんでもCRPが上昇します。

感染症(細菌性・一部のウイルス性など)
自己免疫疾患(関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、成人発症Still病など)
悪性腫瘍
外傷
心筋梗塞狭心症では数値はさほど上がらないとされる。
その他、炎症を起こす疾患(胃炎・腸炎など)。

引用・参考サイト:
C反応性蛋白 - Wikipedia
検査値の達人 - C反応性タンパク(CRP:C-reactive protein) | キャリタス看護


病気がみえる vol.5: 血液

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労災保険についての簡単な解説

今回の記事では、労働者災害補償保険(略称:労災保険)について解説していきます。

 

 

はじめに

労災保険は、労働者の方々が業務や通勤が原因で負傷した場合、病気になった場合、亡くなられた場合に、ご本人や遺族の方が受けられる保険です。業務災害・労働災害として認定された怪我や病気は、自己負担なしで医療を受けられます。その為、仕事とは無関係に発症した病気や怪我により、健康保険を使って治療を受けた場合と比べ、大きなメリットがあります。

 

主な労災保険の種類

療養(補償)給付

(1)労災病院労災保険指定医療機関においては、業務災害と認定された怪我や病気の治療は原則として無料で受けることが出来ます。その際、指定医療機関に療養の給付請求書を提出する必要があります(療養の給付)。

(2)やむを得ず指定医療機関以外で治療を受けた場合には、一旦治療に掛かった費用をご自身で負担して頂きますが、後日請求して頂くことにより、負担した費用の全額が支給されます(療養の費用の給付)。

*療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌月から2年(療養の給付については時効は問題となりません)

その他にも、労災保険では、働けず休業している期間中に支給される【休業補償給付】や【遺族補償給付】【障害補償給付】【介護補償給付】などがあります。

労災保険は、仕事に関係ない疾病や怪我(私傷病)を治療する際に比べて手厚くメリットが大きい制度であると言えます。

事業主が証明してくれなくても請求可能

労災の請求時には、原則として事故状況・原因等の事業主証明が必要となります。労災かどうかで企業側と意見が対立し、事業主から証明がもらえないなどやむを得ない事情がある場合には、事業主が証明してくれない旨の書類を添付し、労働基準監督署に直接書類を提出することもできます。

労災認定を請求中の医療は、当面の間、労災扱いで受けられますが、結果的に認定されなかった場合は、後から健康保険との間で費用調整が行われる形になります。

企業側の責任を問う場合

企業に安全管理上・労務管理等に問題が生じて、責任を追及した場合、民事上の損害賠償請求を行うこともできる。一般的には、企業の安全配慮義務違反を問い、債務不履行を理由に訴えるケースが多いです。

民事訴訟では、労災保険の給付範囲を超える逸失利益、慰謝料も請求する事もできます。既に労災認定を受け、労災保険で医療費や休業補償等の給付を受けていた際に労働者側が勝訴した場合は、二重給付を防ぐため民事賠償額が調整されます。