ー元大学病院職員である20代社会人の医療や福祉に関する備忘録ー

元大学病院職員の20代男子が医療や福祉の事を発信するブログです。

東大医学部教授の退官記念講演での有名な逸話

医療関連の新書を読んでいた際に、印象的なエピソードが載っていたので、ブログで紹介させて頂こうと思います。

東大教授の退官記念講演での有名な話

1963年、ある高名な医師の方*1が退任記念の最終講義において教授在任中の集大成として「内科臨床と剖検による批判」について発表しました。
その発表の中で集まった教え子達に向かって、「これまでの自分の誤診率は14.2%だった」と話されたのです。

会場からは響めきが起こりました。
その後、この話は新聞社を通して外部にも伝わり一般の人々も間にも広く反響を呼んだそうです。
けれども最初の講演会場での医師や学生達の驚きと、一般市民の驚きは全く異なるものでした。

会場にいた医師達はその誤診率の“低さ”に驚いていたのに対し、一般の人達は誤診率の“高さ”に驚いたのです。日頃臨床に身を置く医師にとっては、“徹底的に診断しても、厳格な基準のもとでは誤診はこんなに出る。医学とは難しいものなのだ。”と改めて痛感させられる内容だったのではないでしょうか。

反対に、一般市民にとっては東大の教授でさえも14%もの確率で誤診してしまうのかと思われたのかもしれません。

専門家と一般人の間では誤診の意味合いが異なる

実際に誤診と判断としたのは厳しい基準によるものだったそうです。
沖中教授の言う“誤診”とは、臨床所見と部険所見との不一致を意味し、世間一般にいう医師の不注意や怠慢・知識不足等により診断を誤った事で患者側に著しい不利益を及ぼしたものではないという事です。

17年間の剖検率は平均86.2%、内訳は入院患者総数8,512人、死亡1,044人、剖検数900。この900のうちから正確なデータのとれる750を対象に、厳密な誤診の判定基準を設けて分析した。第一は臓器の診断を間違ったもの、第二は臓器の診断は正しいが病変の種類の違っているもの、第三は診断と剖検所見は一致するが原発の臓器が違っているもので、これは非常に厳格な判定基準である。

CTやMRI等の画像診断を始めとした診断技術が未発達な時代において、誤診率14%というこは驚異的な低さであると言えるかもしれません。病歴聴取、基本的な診察、限られた検査所見でここまで診断を付けていたことに感服します。

医療職は自らの専門的知識やこれまでの臨床経験に基づいて、患者の病状を診断し、治療方針を決定する裁量を有していますが、“診断上の限界点”を認識し、自らの診断や医学における不確実性を自覚する必要があると思います。

度重なる誤診

度重なる誤診

  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: MP3 ダウンロード

参考サイト:
okiken.tokyo

*1:冲中 重雄(おきなか しげお) 医学者。医学博士。1902年(明治35)、石川県生まれ。東京帝国大学医学部医学科卒業。1928年(昭和3)東京帝大副手となり、1931年欧米に留学。1943年同助教授、1946年教授となり、1963年までつとめる。