ー元大学病院職員である20代社会人の医療や福祉に関する備忘録ー

元大学病院職員の20代男子が医療や福祉の事を発信するブログです。

余命宣告を受けてから実際にどれくらい生きられるのか

重い病に罹った際に、多くの患者家族にとって「病気が治るのか否か」は何より気掛かりとなると思いますが、その病気が治る見込みがないと判明した際に、「患者があとどれくらい生きられるのか」「余命はどれくらいになるのか」を知りたいと思うのは自然な事だと思います。

今回の記事では、余命について詳しく解説していきます。

余命を患者に伝えない時代から本人の意向を尊重する時代へ

かつては、余命僅かと診断された患者の多くに対して、本人に余命を告知しない事が当たり前とされてきた時代がありました。しかし、近年では患者を中心とした医療への転換やインターネット等を通して医学情報が一般に普及してきた影響を受け、患者の意向を尊重しながら、本人が望む情報を伝えるよう傾向に変わってきました。

余命を知る事のメリットとデメリット

自らの死期を告げられる事で、精神的にショックを受けたり、恐怖や不安に襲われたり、現実を受け止められなくなってしまう患者家族も多いかと思います。

しかしながら、それと同時に患者が真実を知ることによって、予め死ぬ前に準備しておくことや今後起こり得ることなどを想定し、どのように病気と現実的と向きあっていくのかを考える為にも、患者の意向を尊重しながら、医療者が適切なタイミングで余命告知を行う事は重要だと考えます。

余命で言われた期間と実際に生存した期間が違う

実際に告知された余命期間を過ぎても生き続ける人は少なくありません。つまり、余命3ヶ月と告げられた人が1ヶ月で亡くなる事もあれば、反対に半年や10ヶ月生きる事も決して珍しくはないのです。医師に言われた余命よりも長い期間生きる患者さんは現実に沢山存在するので、“患者が最期まで頑張ったから”“医者が手を尽くしてくれたお陰“で長く生きられたと思われているケースも、実は告げられた余命が正確ではなかったからと考える事もできます。

どのように余命を推定しているのか

どんな医師であっても、個々の患者の余命を正確に推測することは実質的に不可能です。
多くの人は余命と聞くと、「この先、生きられる残りの期間」と受け取られがちですが、実際は「これくらいの期間は生きているだろうと医師が推測する期間」でしかありません。人の真の寿命については現代の医学では正確には分からないのが現実です。
医師が告知する余命○ヶ月(年)というのは、あくまで統計的なデータや臨床経験に基づいて推測されたものであり、実際にいつまで生きられると正確には断言できないのです。

医師が余命を判断基準として参照される事が多いのが「5年相対生存率」「生存期間中央値」です。

5年相対生存率について

5年相対生存率
あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体(正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団)で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
✳︎部位別では前立腺甲状腺、皮膚、乳房(女性)、喉頭、子宮体部が高く、膵臓、胆のう・胆管、肺、脳・中枢神経系、肝臓、食道、多発性骨髄腫、白血病は低い。

(国立がん研究センター がん登録・統計より引用)

簡単に言い換えると、5年生存率とは「病気の診断をされてから5年後に生きている人の割合」です。
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これを踏まえたうえで下記の表のステージ2を見てください。

肺がんの5年生存率
ステージ1  83.3%
ステージ2  48.8%
ステージ3  22.7%
ステージ4   5.8%

(全国がんセンター協議会HPより引用)

肺がんのステージ1における5年相対生存率は83.3%ですから肺がんのステージ1と診断された人の約8割が5年後にも生存しているという事になります。

生存期間中央値について

生存期間中央値は、同じ段階の患者全員が死亡するまでの期間の”平均値“ではなく、その集団の半数の患者が亡くなるまでの期間を指します。

生存期間中央値(MST)とは、その集団において50%の患者さんが亡くなるまでの期間を示します。
例えば100人の患者さんを対象にする場合、50人目が亡くなった時点が生存期間中央値ということになります。MSTが12ヶ月といえば、患者さんたちに治療を行って12ヶ月経過すると半分の方は亡くなるということを意味します。

(がん情報サイト「オンコロ」より引用)

余命をはっきりと答えるのは難しい

実際には医師に聞いた場合、はっきりと答えてもらえないと感じる場合も少なくありません。しかしそれには、答えられない理由があるのです。余命をこれまでのデータや経験を基に予測したとしても、実際は個々の状態や病気の進行、治療経過などによって異なる為、正確な情報をお伝えする事は難しいのが現実です。

余命は敢えて短めの期間で伝えられることが多い(?)

医師が実際に“余命”を伝えるときは、推計よりも短く伝えている事もあるそうです。実際よりも長めに伝えてしまうと、それよりも早く亡くなったときに、ご家族は「この治療は適していなかったのではないか」と考えてしまいます。しかし、短めに伝えている場合、それよりも長く生存していれば、ご家族は「よく頑張った」と考えることが多いでしょう。
医師が答える内容次第で患者や家族側の反応は変わりますので、そういった背景も踏まえて余命の告知をする場合があるという事ですね。

参考サイト:
ganjoho.jp
www.google.co.jp
kapweb.chiba-cancer-registry.org