ー元大学病院職員である20代社会人の医療や福祉に関する備忘録ー

元大学病院職員の20代男子が医療や福祉の事を発信するブログです。

障害年金の等級認定を巡る議論に関する私見

公的年金制度の種類について

公的年金」と聞くと、一般的には高齢になった時に受け取る老齢年金のイメージが強いかもしれませんが、年金制度は大きく以下の3つの種類が存在します。

(1)老齢年金
(2)障害年金
(3)遺族年金


年金制度を巡る議論

団塊の世代の多くが65歳以上となり、老齢年金の支給が急増し、老齢年金、遺族年金、障害年金の合計給付額が急増してきている背景と共に障害(基礎)年金の障害等級の認定に関しては、深刻な問題があることを窺わせる出来事が、近年相次いでいます*1

障害年金受給の特性上の問題

老齢年金や遺族年金の場合ならば、給付要件を満たした上で書類をきちんと揃えて申請すれば、ある程度確実に受給することは可能となります。一方で、障害年金の受給に際しては、等級判定基準に基づき、認定審査の手続きを経て支給の可否が決定されます。

障害年金でも身体に係るものに関しては、一定の検査数値の基準を満たせば、ほぼ自動的に障害認定されると言われていますが、鬱病等の精神疾患の場合は、こうした検査数値で障害等級が判断されるものではなく、総合的な所見を踏まえた審査が行われています。近年、鬱病等の精神疾患に罹る人が増加し、精神疾患による障害年金申請が増加したことで、障害年金の申請に携わっている現場の支援者からは、審査が厳しくなっているという意見もあります。
こうした背景下には、年金制度の持続可能性を担保する為、支給する年金額の増大を出来るだけ抑える上で障害年金が削りやすい性質を持つことが関係していると思われます。しかしながら、障害の認定基準を狭めることのより、障害年金が本来は必要な人に支給されなければ、疾病や障害による稼得能力喪失に伴う収入減少といった課題を抱える多くの障害を持つ方の生活に不利な影響を及ぼすことが懸念されます。

総論

障害がある為に、就労できず生活を維持していくのに十分な収入が得られない人にとっては障害年金は唯一の収入源である可能性が高いと思われます。国は障害者雇用を推し進めており、現在でも障害や病気を抱えながらも、自分の能力を活かして就労することで賃金を得て生計を立てている障害者の方も少なくありません。

出典:厚生労働省「令和元年 障害者雇用状況の集計結果」

しかしながら、現状、精神障害者等の多くが就労している小規模作業所や就労支援施設や短期間のパートタイム就労/福祉的就労では経済的に自立できるほどの充分な賃金を稼ぐことは難しいです。

働いて収入が得られない、障害年金も受給できないとなれば、最後のセーフティネットである生活保護の申請が検討されます。しかしながら、障害年金が受給できなければ生活保護に頼れば良いと短絡的に考えるべきではないと思います。生活保護は、補足性原理によって家族の扶養や他法他施策を活用することを前提とした制度である事、受給に伴うスティグマが生じやすい事などから、障害者の所得保障を支える制度として適切であるとは言い難いです。

障害年金はあくまでも「年金制度」の一部であり、将来的には大多数の者が受給する事が見込まれる所得保障制度であり、国民の保険料拠出の上で成り立つ制度であるなど、受給の際に生活保護よりも抵抗感が生じにくいと考えられます。現在の生活保護の役割の重要性は必ずしも否定されるべきではないものの、長期的には、生活の在り方を可能な限り自ら選択・決定する為に必要となる所得の選択肢が多様に確保されることが重要であり、必要とする人が1人でも多く受給できる制度にしていく為に、障害基礎年金をどのような制度にしていけば良いのか、国全体で考えていく必要があると私は考えます。